3分クッキング(その後)

公演後に書いた、「その後」編です。

 

【登場人物】

男1

男2

女1


机の上に、食材と調理器具が並んでいる。
男1と男2がエプロンをつけている。
勢いのいい音楽がかかる。音楽のリズムに合わせて
   
男1・2 3分クッキング!
男1 今日の料理は、カレーと、きんぴらごぼうと、冷奴だ!
男2 多いな! 3分で作れるのか?
男1 大丈夫だ・・・俺たちならやれる。
男2 アニキ! 本当にできるのか? 3分だぞ?
男1 では聞くが・・・
男2 なんだ
   
男1たっぷりためて
   
男1 俺たちにできないことなんて、あるのか?
男2 (雷に打たれたように) かっけえ・・・
男1 まずは、野菜の皮をむくぞ。人参をとってくれ。
男2 おう!
男1 人参の皮をピーラーでむくんだ。
男2 そして、皮をむいたものがこちらだ!
男1 馬鹿野郎!
   
男1は男2をなぐる。音楽が止まる
   
男2 アニキ・・・どうしたんだよ。
男1 そんなんいらん
男2 なんでだ・・・!
男1 今日は、やるんだよ、全部。
男2 アニキ・・・
男1 段取りなんて、気にしなくていいい。3分以上かかったっていいんだよ。
男2 アニキ・・・! わかったよ。
男1 お前は手をだすな。見てろ。俺がやる。
男2 かっけえ・・・
   
男1はピーラーで人参の皮をむきはじめる。それほど料理は得意でない。
   
男1 む・・・ん。むむう・・・ふむう
   
男1は、ピーラーと人参を置いて
   
男1 (息をゆっくりと吐いて丹田に気を集めている)
男2 アニキが丹田に気を集めている・・・
男1 はあっ
男1 よぉう!! ほっ。とりゃあああ!!
   
何もおこらない
   
男2 アニキ、やろうか
男1 たのむ。おれは何をすればいい。
男2 まあ、見ててくれ。
男1 うおう!!!
   
男1はじっくりと近づいてみる
   
男2 ちかいちかいちかい
男1 カレーの人参って、かわむくんだなー
男2 (たっぷり間)つっこまないぞ
男1 うむ
男2 ・・・はい終わり。で、どうするんだ
男1 貴様はカレーぐらい作れんのか
男2 どの口がいうんだ
男1 わかった。レシピを見よう
   
男1はノートを取り出す。
   
男2 なにそれ
男1 アケミが、亡くなる前に作ってくれたんだ。最後にうちに帰ってきた日にくれた
男2 レシピ集か
男1 そうだ。
   
沈黙
   
男2 カレーの作り方は?
男1 のってる。カレー、シチュー、ハヤシライス
男2 ルーつかうのばっかりだな
男1 アケミのカレー、うまかったなあ。
男2 ああ、俺もごちそうになった。
男1 とにかく、すげーうまいんだよ。味が複雑で・・・きっと隠し味が決めてなんだな
男2 レシピを見てみよう
男1 ちょっと待て、ええと、カレー、カレーと・・・
   
言ってる途中で、女1出てきて
   
男1女1 カレーの作り方
女1 カレーは、こくまろがおいしいです。カレーの箱の裏側のレシピどおりに作ってください。
変なものは入れないほうがいいです。とにかく、箱の裏側どおりに作ってください。
   
沈黙
男1と男2、見合わせて
   
男2 こくまろだって
男1 買ってある。(箱を出す)
男2 よし、裏側どおりにつくろう
男1 わかった
男2 (カレーの裏箱のレシピを少し読み上げる)
男1 これがアケミの味だ!
男2 そういえば、アケミさんの料理、シチューもうまかったよな
男1 あれは絶品だったな。ええと・・・
   
女1出てきている
   
男1 シチューのレシピもあるぞ
男1女1 シチューの作り方
女1 とりあえず裏側のレシピどおりに作ってください。
男2 うんわかった
男1 ハヤシライスもうまかったよな。
男2 ハヤシライスの作り方
女1 裏側通りがいいと思うたぶん
男2 どんどん短くなっている・・・!!!
男1 ルーを使うやつは裏側のレシピどおりに作れってことだな
男2 アニキにはちょうどいいな
男1 きっと、俺のためにそう書いてくれたんだろう じゃあ、まず、(カレーの裏箱のレシピを読み)ここからだな。
男2 じゃがいもをむこう
   
二人でじゃがいもをむく
   
男2 今日はあと何をつくるんだっけ
男1 きんぴらごぼう
男2 カレーにきんぴらごぼう?
男1 好きなんだ。約束だしな。
男2 なんの
男1 レシピは?
男2 あるぞ
男2女1 きんぴらごぼうの作り方
女1 細く切って、じゃっじゃって炒めて、二まわしくらい入れて、ごま
男2 主語がわからない・・・!!!
女1 だいたいわかるっしょ。なんか文句ある?
男1 とりあえず、ごぼうを細く切ろう。お前はきんぴらを細く切ってくれ
男2 できるかばか
   
男1はごぼうを切り始める。「うおう!」とか言っている。あぶなっかしい
   
男1 あぶなっかしいな~
男2 今日は何を作るんだっけ
男1 カレーときんぴらごぼうと冷奴と・・・
男2 冷奴か。(レシピ集を見て)お、冷奴のページもあるぞ。なんとなく予想はつくけど
女1 冷奴の作り方。豆乳とにがりを用意します
男2 そこからか!
男1 今日は、豆腐を買ってきた
女1 じゃあ、あとねぎ
男1 ねぎを刻んで
女1 はいできあがり
男1・2 でぇぇぇきぃたああああ!!!!!
女1 いやいやいや、冷奴だから
   
レシピ集を読んでいた男2
   
男2 アニキ! 最後のページ
男1 ん?
   
男2 アニキへって
   
音楽。
女1 あなたへ かなり適当なレシピ集になってしまってごめんなさい
あなたが好きな料理の作り方を、なるべくいっぱい書いておくつもりだったんだけど
私には、残された時間が少ないようです。
ごめんね。 カレーやシチュー、ハヤシライスは、「レシピどおりに作って」だし、
麻婆豆腐と麻婆茄子とチンジャオロースとホイコーローにいたっては、「クックドゥ」としか書いてません。
男2 (そのページを見て)ほんとだ!!!
女1 肉じゃがだって、「肉とじゃがいも玉ねぎとしらたき」しか書けませんでした。
そのノリで、冷奴は、「豆乳とにがり」と書いてしまいました。
男1 まとめると、ノリが、冷ややっこの材料ってことか
男2 兄貴、話を複雑にしないでくれ
女1 ラーメンに至っては、「ましまし」
男2 それはレシピじゃない、注文方法だ!(レシピを見て)本当に書いてある・・・
女1 あなたが、好きだった料理をいっぱい書いておきたかったんだけど、ごめんね。
男1 いいんだ。そんなの
女1 明日は、久しぶりに、うちに帰ります。楽しみです。
とても、とても、楽しみです。
でも、たぶん、明日で最後じゃないかなあと、思います。
だから、今日のうちに、これを書いて明日渡したかった。
レシピ集、渡したら、あなたはどんな顔をするでしょうか。
喜ぶでしょうか。こんなもの作るなって怒るかな。
たぶん、後のほうかなあと思います。
でも、受け取ってください。あなたが好きだった料理の作り方です。
明日の料理は、なんにしようかな~
あなたの好きな、カレーときんぴらごぼうかな~
   
(場面が変わる。アケミが帰ってきた日)
   
女1 今日は、カレーときんぴらごぼうと冷ややっこです! わー!!いただきまーす
男1 いただきます。うん。おいしい。
女1 よかった。
   
沈黙
   
女1 だまらないでよ
男1 うん
女1 おいしいね
男1 おいしいよ
女1 また、一緒にたべたいね
男1 たべれるよ
女1 うん。たべようね
男1 たべよう。たべるぞ。たべるからな。約束だからな。
女1 わかったよ。約束ね。
男1女1 いただきまーす
   
(元の場面に戻る)
   
男1 よし、つくるぞ。カレーと、きんぴらごぼう。
男2 わかりました。
男1 お前は、きんぴらごぼうを作れ。おれは、箱の裏側どおりに作る。
男2 わかりました。 (レシピをみて)細く切って、じゃっじゃって炒めて、二まわし・・・
って、何を二まわし入れるんですか?
男1 さあな!
男2 つくれないじゃないですか。
女1 ごめんなさいね!
男1 (ゆっくりと、かみしめるように) いいんだよ、作れなくても。それがレシピだろ?
男2 それはレシピじゃありません。
男1 じゃあクックパッドでしらべろ!
女1 うそお!? ・・・まあいいか。
   
女1は、椅子に座っている
   
男2 もう1年か。早いですね。
男1 ああ。早いな。
男2 帰ってきてますかね。
男1 ああ。たぶん。
女1 うん。帰ってきてるよ。約束だからね。
   
音楽止まる。
   
女1 ただいま。
   
男1男2、女1のほうをむく。目線があう、ような、あわない、ような。