- 体育館ですぐ上演できるように、スタッフワークは最小にしてあります。舞台装置は椅子のみ、ピンスポ不要、色明かりなし、音響2曲のみ、効果音なし。
- 幕が開き、明かりがついたら、ほぼ役者の演技だけでお客さんをお芝居の世界に連れていくことにチャレンジする台本になっています。
〇登場人物
女1:アイドル
女2:アイドル
女3:アイドル
プロ:プロデューサー
マネ:マネージャー
学生:ファンの学生
※プロデューサーと学生は男性、マネージャーは女性を想定して書いていますが、男女入れ替えできます。
幕が上がると、アイドルのレッスンルーム。
いすが2~3あり、その他にも特に何もないが、時計くらいはあってもいい。
(時計は、21時くらいをさしている)
女1、女2、女3が立っている。
-
女1
-
明日は、私たち「トリプルアクセル」(※)のメジャーデビューライブ!
-
女3
-
とうとう、ここまできたんだね……
-
女2
-
気合入れていこう!
-
女1
-
(大きく息をすって)よっしゃーーーーー!!!
※ユニット名は、3人であることが分かればなんでもよい
女1、手を差し出する。女2、重ねる。
女3は、最後に手を重ねる(が、微妙に触れていない)
-
女1
-
いくぞーーーー!!!! ○○18歳!!!!
(名前は自由に決めて構わない。以下同じ)
-
女2
-
▲▲16歳!!!!
-
女3
-
■■17歳!!!!
-
3人
-
コンセプトは「わかりやすいアイドル」!!!!
-
女2
-
アイドル界のトップを目指して!
-
3人
-
トリプルアクセル、行くぞーーーー!!! おー!!
プロデューサーとマネージャーが駆け込んでくる。うるさければうるさいほど良い
-
プロ
-
大変だーーーー!!!!!
-
女2
-
プロデューサーさん!?
-
マネ
-
どえらい大変だーーーー!
-
女1
-
マネージャーさん!?
-
女3
-
どうしたの?
-
プロ
-
はあ、はあ……(息を整えてから)明日のデビューライブ中止の危機だ!
少し間。
-
3人
-
えええええええ!
-
女2
-
どういうことですか?
-
マネ
-
あなたたちのアイドルコンセプト「わかりやすいアイドル」なんだけど
-
プロ
-
……かぶったんだよ
-
女2
-
かぶった?
-
マネ
-
見事に、全く、完全に、寸分の狂いもなく、かぶったの
-
プロ
-
正確にいうと、パクられた。
-
マネ
-
トリプルアクセルのアイドルコンセプト「わかりやすいアイドル」は、明日、隣のホールでメジャーデビューするアイドルユニットとまったく同じになってる
-
プロ
-
さっき、緊急記者会見で発表されたんだ
-
マネ
-
☆☆プロダクションが送る新人大型ユニット「****」!コンセプトは「わかりやすいアイドル」!!! って大々的に……
-
女2
-
ちょっと、なんで、そんなことが
-
プロ
-
まあ、☆☆プロダクションの横やりだろうな
-
女3
-
あいつら、ほんと、昔から汚いよなあ
-
女2
-
プロデューサーさん、なんとかならないんですか?
-
プロ
-
記者会見されてしまうと、正直、厳しい
-
マネ
-
プロデューサー、今から「こっちが先だ」と発表するのは?
-
プロ
-
こっちは後手だ。パクリだと言われて、終わりだろうな
-
マネ
-
まあ、そうでしょうね……
少し間。
-
プロ
-
……いや、ピンチはチャンス、か
-
女1
-
どうしたんですか?
-
プロ
-
こっちが路線変更すればいいんだよ
また、間。
-
女3
-
いやいやいや
-
女1
-
プロデューサーさん、ちょっとそれは厳しいかと
-
女2
-
無理だよ、明日だよ?
-
プロ
-
いや、正直、「わかりやすいアイドル」ってのもどうかと思ってたんだ
-
女3
-
え、それ、今言う?
-
プロ
-
逆に、若干わかりにくい!
-
女2
-
そんなことないって!
-
女1
-
これは、昔3人で決めた大切なコンセプトで……
-
プロ
-
知ってるよ。
-
マネ
-
「和服アイドル」「ツンデレアイドル」「北欧の妖精のようなアイドル」「魚釣りアイドル」「婚活アイドル」……なんでもありのアイドル戦国時代にこそ、「わかりやすいアイドル」が求められている、ってね
-
女1
-
そうです
-
マネ
-
あなたたちの気持ちは、よくわかる
-
女2
-
だったら……!
-
マネ
-
でも、この業界、パクリだと言われたらおしまいなの。知ってるでしょ?
-
女1
-
私たちはパクッてないです!
-
マネ
-
知ってるよ。私だって悔しい。でも、あなたたちが明日アイドルになれなかったら、意味がないんだよ
-
女3
-
それは……そうだね
-
女1
-
でも、私たちはこのコンセプトでがんばってきたのに……
-
プロ
-
路線変更は、やるしかない。……これは決定だ。
静かな間
-
女1
-
いやです
-
女2
-
同じくいやです
-
女3
-
……○○、▲▲
-
プロ
-
お前らはそれでトップを目指せるのか?
-
女1
-
いや、それは……ええと……
-
女2
-
でもプロデューサーさん、仮に、仮に路線変更するとしてですよ?何かいいアイデアはあるんですか?
プロデューサーは、何かアイデアがありそうなドヤ顔を見せつける
-
プロ
-
……ない!!
-
女3
-
ないのかよ!
-
プロ
-
▲▲、なんかないか?
-
女2
-
え? 私?
-
マネ
-
最近気になるものとか、あるでしょ?
-
プロ
-
なんでもいいぞ? もともとなんでもありの業界なんだ。
-
女2
-
ええと……じゃあ、燻製?
-
女1
-
くんせい? ってあの、料理の燻製?
-
女3
-
何か言えばいいってもんじゃないよね?
-
女2
-
流行ってるらしいよ? おうちで燻製
プロデューサーとマネージャーは、まじめに顔を見合わせて、
-
プロ
-
燻製大好き、いぶし銀アイドルか……
-
マネ
-
……プロデューサーさん、これは……
-
プロ
-
ありだな
-
マネ
-
ありですね
-
女3
-
なしでしょ
-
マネ
-
明日のライブのスモークは全部、燻製の煙にしましょう
-
プロ
-
……ありだな
-
女3
-
なしでしょ!
-
女1
-
え、ちょっと、マネージャーさん? 本気?
-
マネ
-
あなたたちのためなら、いつだって全力本気!
-
女1
-
会場のなか、燻製くさくなっちゃうよ!
-
マネ
-
事務所に連絡して、燻製セット調達できるか聞いてきます!!
-
プロ
-
ああ、頼む
マネージャーは、出ていく
-
女3
-
あー、いっちゃったよ
-
女1
-
あの、プロデューサーさん
-
プロ
-
なんだ?
-
女1
-
燻製とかそういうのでいいんですよね?
-
女3
-
いや、よくないよ?
-
女1
-
実は私……、甲冑が好きなんです
-
プロ
-
かっちゅう……?
-
女2
-
ああ、甲冑って戦国時代の武将の?
-
女1
-
そう、甲冑
-
プロ
-
甲冑、アイドルだと……?
-
女1
-
よくないですか? 甲冑。私好きなんですよ、ほら、黒漆塗六十二間小星兜(くろうるしぬりろくじゅうにけんこぼしかぶと)とか、素敵ですよね……
-
女3
-
なんかこの空間にでっかいハテナが浮かんでるよ?
-
女1
-
……あ、引いてます?
-
プロ
-
うん、引いてる
-
女1
-
そんなにはっきり言わなくても!
-
プロ
-
甲冑アイドルか……うーん、あり、なのか……?
-
女3
-
それ悩む必要ないよね?
-
プロ
-
……逆転ホームランってことか?
-
女3
-
それはなくない?
-
プロ
-
ちょっと、調整してみるよ
-
女3
-
誰と、何を調整するの?
-
プロ
-
まず、甲冑の調達か……
プロデューサーは、さっそうとスマホを取り出し、かっこよくFace IDでログインし、電話
-
プロ
-
(電話しながら、かっこよく)私だ。(突然低姿勢に)あ、すみません、急ぎで甲冑を2台、用意できます?いや、あるならありったけ
プロデューサー、電話しながら出ていく。
-
女2
-
いま、ありったけって言わなかった?
-
女1
-
プロデューサーさん…… 甲冑は、1台2台じゃなくくて、1領(りょう)2領って数えるのに。
-
女3
-
つっこむとこ、そこ?
-
女1
-
確かに甲冑は好きだけど、甲冑アイドルに路線変更っていうのはどうかと
-
女2
-
じゃなんで言ったの?
学生が、じーっと、舞台脇からアイドルを見ている。
3人は、視線を感じそちらをゆっくりと見る。
-
3人
-
こわっ!
学生が逃げようとするが、マネが入ってきて、学生を見つける。
-
マネ
-
ちょっと、君! 部外者立ち入り禁止だよ!?
-
学生
-
す、すみません!
-
マネ
-
君、高校生?
-
学生
-
ええと、中学生です。
-
マネ
-
ほら、もう夜遅いから、中学生は帰りなさい!
-
学生
-
すみません……トリプルアクセルのみなさんに、明日のライブがんばってくださいって、どうしても伝えたくて……
-
2人
-
(営業スマイル)ありがとうございます!
-
女3
-
あの子、なんか会ったことあったような……
プロデューサー、走りこんでくる。大変な勢いである
-
プロ
-
大変だーーーーーー!!!!!
-
女1
-
わ、なんですか!
-
プロ
-
「甲冑アイドル」のコンセプトが、かぶった!
-
3人
-
えええええー!
-
マネ
-
どういうことですか?
-
プロ
-
事務所から連絡があってな、いまアイドル界が大変なことになってる
-
女1
-
大変なこと?
-
プロ
-
まず、明日、高知の劇場で、「燻製アイドル」がデビューする
-
女3
-
ホントにいたの!?
-
プロ
-
だが、とんでもないことに、大阪の劇場で、同じく「燻製アイドル」がデビューする予定だったらしい
-
女2
-
それ、かぶります?
-
プロ
-
ああ、かぶった。だから大阪のアイドルのほうは、急遽「たまごかけごはん大好きアイドル」に路線変更したらしい
-
マネ
-
あー、その手があったか……
-
女1
-
なにそれどういうこと?
-
学生
-
「たまごかけごはん大好きアイドル」は、たぶん来ますよね
-
マネ
-
来るよね、間違いなく、来る
-
学生
-
「え、こんなにかわいいのに、たまごかけごはん好きなの?」みたいな
-
マネ
-
ギャップ萌えだね。ところで、君。……いいね!!
学生とマネージャーは、顔を見合わせて、握手をする
-
学生
-
ぼくは、もちろん、トリプルアクセルが一番好きですけど!
-
マネ
-
私もよ!
-
プロ
-
あー、うん、続き、いいか
-
マネ
-
あ、はい。
-
プロ
-
ところが、更にとんでもないことに、池袋でも「たまごかけごはん大好きアイドル」がデビュー予定だった
-
女3
-
もう、なんでもいいんだな、きっと
-
プロ
-
仕方なく、池袋のほうは、「甲冑アイドル」に路線変更し、我々とかぶったと。
-
女2
-
壮大な玉突き事故だね
-
マネ
-
本当にとんでもない業界になったものね
プロデューサーは、座り込む。
-
女2
-
あの、プロデューサーさん、
-
女1
-
私たちやっぱり……もとのコンセプトで
-
プロ
-
あ! 組み合わせってのは、どうだ!?
-
マネ
-
組み合わせ?
-
プロ
-
たまごかけごはん大好き、甲冑、魚釣りアイドル……これだ!!!!
困った間
-
女1
-
……甲冑で魚釣りはできません!
-
女3
-
つっこむとこ、そこ?
-
マネ
-
「え、こんなにかわいいのに、たまごかけごはんが好きで、しかも甲冑が大好きで、魚釣りしているアイドルなの?」みたいな感じか……
-
マネ
-
ギャップ萌え……?
-
女3
-
ちょっと無理あるんじゃない?
-
学生
-
トリプルアクセルがやるなら、僕は何でもいいです
-
女3
-
アイドル愛って怖いな!
-
プロ
-
これなら、さすがに、かぶるってことはないだろ。どうだ?
-
女3
-
かぶらないことが目的じゃないよ?
-
マネ
-
それで明日トリプルアクセルがデビューできるなら、やむを得ないかと
-
女3
-
やむを得るでしょ
-
プロ
-
よし、ちょっと調整してみる
-
女3
-
誰となにを調整してるの!?
-
女1
-
なんか私たち迷走してない?
-
プロ
-
マネージャーは、たまごかけごはんの調達をたのむ。
-
マネ
-
はい! (電話)もしもし、急ぎでたまごかけごはんセットを届けてもらえますか? ええと、100セットくらいかな。
-
女2
-
あの! プロデューサーさん!
-
プロ
-
ん? なんだ?
-
女2
-
やっぱり、一番最初の「分かりやすいアイドル」じゃダメでしょうか。■■と3人で決めたコンセプトで行きたいんです。
-
女1
-
■■は、もういないけど……だからこそ、私達は……
間。
-
プロ
-
(2人の顔を見て)ふむ。この手紙は、君たちに見せるか迷ったんだが……。実は、■■が亡くなる前に、病院で書いた手紙を預かっている。
-
2人
-
え・・・!
プロデューサーは、内ポケットから手紙を出す。
ゆったりとしたピアノ曲がかかる。明るくも悲しくも聞こえる感動的な曲である。
-
プロ
-
「○○ちゃん、▲▲ちゃん、デビューおめでとう
この手紙を見ているということは、私は、もういないってことだね
一緒にデビューできなくて、ごめんね
でも、私は、二人が、今夜を迎えたことを、本当にうれしく思います
2人でがんばって、トップを目指してください
追伸、プロデューサーさんは、本当に頼もしい人です
特にコンセプトや路線の話は、プロデューサーさんの右に出る人はいません
プロデューサーさんの意見をよく聞いて、ライブを成功させてください」
音楽止まる。静かな空間。
-
女3
-
いや、書いてない、書いてない! 私、そんなこと書いてないから!
-
プロ
-
「これから、大変なこともあるかもしれません。
路線変更も必要かもしれない。
でも、プロデューサーさんを信じて。応援してるからね」
-
女3
-
書いてないよ!? 二人とも だまされないで!
女3が振り返ると、女1はすすり泣き、女2は必死に嗚咽をこらえている
-
女3
-
ウワーメッチャダマサレテルゥー
-
女1
-
……プロデューサーさん、私、甲冑魚釣り、やります
-
マネ
-
そうね! ■■の分も、甲冑魚釣りやりましょう!
-
女3
-
いらないいらない、私の分の甲冑魚釣り、全然いらない。 というか、私の分の甲冑魚釣りってどういうこと?
-
プロ
-
▲▲は、どうする?
-
女2
-
■■の気持ちは分かったけど……私は反対。いくら何でも、甲冑で魚釣りするアイドルはどうかなって思う
-
女3
-
▲▲! それだよ! それが言いたかった!
-
女2
-
やっぱりさ、私は、■■と決めた路線でいきたいよ。それができないなら、明日のデビューライブは、やめる
-
マネ
-
▲▲……
沈黙。やがて、学生は、しっかりと女1と女2を見据えて
-
学生
-
僕は、■■さんが、推しでした。それはもう、推しで、推しで、推しでした。
-
女1
-
え、ちなみに私は?
-
学生
-
○○さんは、正直、ちょっと範疇外(はんちゅうがい)というか
-
女1
-
ひどい!
-
女2
-
私は?
-
学生
-
▲▲さんも、すみません、箸にも棒にもひっかからないというか
-
女2
-
箸にも棒にも!?
-
学生
-
■■さんは、僕にとって生きる力であり、生命の源でした。
-
女3
-
わたしはそんなに素晴らしいものじゃないよ!?
-
学生
-
だから、僕は、■■さんが亡くなったとき、僕も死のうと思いました。
-
女3
-
そんなことで!?
-
学生
-
僕にとっては、とてつもなく大きくて、つらいことだったんです。
-
女3
-
でも、だからって……
-
学生
-
今から20年以上前、人気ギタリストが亡くなったとき、後追いで死んだ人が何人もいたそうです。それって、変なんでしょうか?
-
マネ
-
……ううん、変じゃないよ。それは、人それぞれだから。
9月1日の夏休み明けがとてつもなく大きくて、つらい人だって、いる。
ひとつひとつ、大事な理由があるから、「そんなこと」で済ませちゃだめ。
ひとつひとつ、真剣に向き合って、考えなきゃいけない。
-
学生
-
だから、僕は、この悲しみに、向き合うことに決めました。僕は、■■さんが好きだから、■■さんが好きだった○○さんと▲▲さんの、ファンになることに決めました。
学生は、女1と女2をまっすぐ見据えて
-
学生
-
僕は、全くの範疇外だった○○さんのファンになります!
-
女1
-
無理しなくていいよ!
-
学生
-
僕は、箸にも棒にもひっかからないと思ってた▲▲さんのファンになります!
-
女2
-
逆につらい!!
-
学生
-
▲▲さん、明日のチャンスを、ものにしてください!
-
女2
-
それは、もちろんそうしたいけどさあ……
-
学生
-
明日、■■さんの分まで、甲冑魚釣りをしてください!
-
女3
-
もっかい言うけど、私の分の甲冑魚釣りってどういうこと?
-
学生
-
明日、僕は最前列で、最高のコール決めますから!!!よっしゃー!!!!! 甲冑魚釣りいくぞー!!!!!
-
マネ
-
おーーーーーー!!!!!
-
女1
-
うわなに!?
-
女2
-
マネージャーさん!?
-
女3
-
あー、この人、アイドルオタなんだよね……実は
-
2人
-
タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!
静寂
-
女2
-
……私、やるよ
-
女3
-
▲▲!?
-
女2
-
甲冑魚釣り、やるよ。二人とも、ありがと……私、覚悟が決まった
-
プロ
-
あきらめとも言うけどな
-
女2
-
それプロデューサーさんが言う!?
-
女3
-
それな
-
プロ
-
覚悟とあきらめは同じものだ▲▲。明日デビューする覚悟、3人で決めた路線を捨てるあきらめ。
-
女2
-
そうか。うん、私、覚悟して、あきらめる
-
プロ
-
……決まったな。
-
女3
-
決めたよ……この嘘つき男
-
プロ
-
じゃあ、俺は、急いで甲冑魚釣りの調整をしてくる
-
女3
-
それさ、さっきから気になってたんだけど、誰と何の調整をしてるの?
-
プロ
-
ほら、君たちも、いくぞ、
-
2人
-
はい
プロデューサーは電話をかけながら、マネージャー、学生とともに出ていく
-
女2
-
ところで、■■の分まで甲冑魚釣りをするってどういうことなんだろう
-
女3
-
うんそうなるよね?
プロデューサー、マネージャー、学生、すぐ戻ってきて
-
3人
-
大変だーーー!
-
女1
-
はい! 甲冑魚釣りもかぶってましたね!
-
プロ
-
ああ、かぶってた!
-
学生
-
もう何やってもかぶる気がします!
-
マネ
-
とんでもない業界になったものね!
-
プロ
-
あー、もうだめだ!!! 飲みにいこう!!
プロ、どさっと座って脱力してから
-
プロ
-
あ、酔っ払いアイドルってのはどうだ?
-
学生
-
恋ダンスじゃなくて酔いダンスってことか……
-
女3
-
誰がうまいこと言えと
-
女2
-
あの、私たち未成年ですから
-
プロ
-
あーあ、■■は付き合ってくれたのになあ
-
女1
-
え? ■■ちゃんも未成年ですけど?
-
プロ
-
ん?
変な間。慌てる女3。
-
女3
-
あ、あの、ちょっとプロデューサー?
-
プロ
-
ん? お前ら知らなかったの?
-
女3
-
それは、だめーーーー!!!
-
プロ
-
■■は、27歳だよ。
-
2人
-
えーーーーー!!!
-
女3
-
ああ、せっかく墓場まで隠しとおしたのに……
-
マネ
-
知らなかった? あ、君は?
-
学生
-
あ、割と有名な話だったんで、はい
-
女2
-
まさか、そんな
-
マネ
-
ああ、あなたたちには、隠してたのね。あの子らしいね
-
プロ
-
あーええと、じゃあ17歳だよ、ほら、永遠の17歳?
-
女3
-
痛い! 痛すぎる!
-
マネ
-
で、路線はどうします?
女1、女2は、プロデューサーを見る。プロデューサーは、少し考えたあと、決断する。
-
プロ
-
自分たちで決めていいぞ。
-
女1
-
いいんですか?
-
プロ
-
ああ、どうせかぶるんだ。自分たちが納得いくものにしろ。おれも、あきらめて、覚悟する。
-
女2
-
だったら……やっぱり、「分かりやすいアイドル」のままで
-
女1
-
私たちは、他とかぶってても、気にしませんから
-
プロ
-
ま、王道っちゃ王道だからな、かぶっても問題ないか
-
マネ
-
王道はつらいよ! ダンスも歌も、がんばろう!
-
2人
-
はい!
-
プロ
-
じゃあ、事務所に電話してくるよ
-
マネ
-
君も、明日に備えて、そろそろ帰ること
-
学生
-
あ、はい! よっしゃやるぞーーー!!!
プロデューサー、マネージャー、学生出ていく。プロは、電話をしながら出ていく
-
女1
-
よかったね。
-
女2
-
うん。
3人が出そうになったところで、プロ、電話を切り
-
プロ
-
大変だーーーーー!
-
女1
-
今度はどうしました!?
-
女2
-
もう路線変更しませんよ!?
-
プロ
-
かぶって……ない!
-
3人
-
え?
-
プロ
-
今連絡があってな、明日隣のホールでデビューする「***」なんだが、「わかりやすいアイドルというコンセプトで集客しておいて、実は燻製アイドルだったというコンセプト詐欺アイドル」というコンセプトらしい。
-
女1
-
それはコンセプトでなくもはや詐欺です。
-
女3
-
どういう経緯があれば、このコンセプトに決まるの……?
拍子抜けしたような間
-
プロ
-
まあ、じゃあ、明日は頼む。
-
2人
-
はい!
-
マネ
-
いい? これは、ゴールじゃなくてスタートだからね
-
プロ
-
高校入試と同じだな。ゴールは合格じゃない
-
マネ
-
あなたたちは、これから悩むはず。「こんな仕事に意味があるのかな」とか「このままでいいのかな」とかね
-
プロ
-
高校で「微分積分なんて意味があるのかな」と悩むのと一緒だな
-
マネ
-
でも、「アイドルになりたい」って最初の気持ちだけは、絶対忘れないで。
-
2人
-
……はい!
-
プロ
-
あとは、いろんな悩みは、放っておけば、時間が解決してくれる!
-
女3
-
プロデューサー、ちょいちょい口を挟むけど、何もいいこと言ってないね!
-
プロ
-
そうだ、■■から、二人のデビュー前夜に渡してくれと頼まれた手紙がある
女1、手紙を受け取って、
-
女1
-
さっきの手紙はなんだったんですか?
-
プロ
-
俺の創作だ
-
女2
-
さらっと汚いことしましたね!
-
プロ
-
俺はアイドルのためなら、汚いことだってなんだってするよ?
-
女2
-
すがすがしいほど、最低ですね……
-
プロ
-
いいんだよ、それがプロデューサーってもんだじゃあ、明日、よろしく。お疲れ
-
2人
-
おつかれさまでした!
プロデューサー、マネージャー、学生、出ていく。
-
女2
-
どうする?
-
女1
-
読もう。もちろん。
音楽がかかる(さっきと同じもの)
-
女1
-
(手紙を読み上げる) 「○○ちゃん、▲▲ちゃん、デビューおめでとう。
この手紙を見ているということは、私は、もういないってことだね」
女1と重なるように、女3が、メッセージを続ける
-
2人
-
一緒にデビューできなくて、ごめんね。
でも、二人のデビュー、本当にうれしいです。
本当は、3人で、ステージに立ちたかったけど、ごめんなさい。
それはできなさそうです。
-
女3
-
わかりやすいアイドル」っていうコンセプト、とても素敵です。
お客さんに愛される2人の姿が、目に浮かびます。
がんばって、トップを目指してください。
これからは、2人のアイドルとして、輝いてください。
ずっと応援してます。
最後のお願いをさせてください。
2人のデビューライブ、私も一緒にいて、いいかな。
一回だけでいいから、一緒におどって、一緒に歌わせてください。
一緒に、ライブ楽しもうね。
-
女2
-
■■……もちろんだよ
-
女1
-
「■■、17歳より」
-
女3
-
ギャーー!!!台無しすぎる!!! 死にたい……!!!(しゃがみこむ)もう死んでる・・!!!
女1と女2、顔を見合わせて
-
女1
-
ま、まあ、永遠の17歳ってことで
-
女3
-
(手で顔をおおって)痛々しい!
女1と女2は、あたりを見回す
-
女2
-
■■、もう来てるのかな……
-
女1
-
うん、きっと、きてるよ
-
女3
-
もう帰りたい……
-
女1
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んふふ~、実は私、霊感あるんだよねー
女1は部屋の隅っこにいく、女3とは逆の方向である
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女1
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■■、こっちだね?
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女3
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おー、きみ、霊感ないなー
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女1
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がんばろうね。■■!(手を広げる)
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女3
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こっちこっち
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女1
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よっしゃーーーーー!!!!!!
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女3
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うるさっ!!!
女1、舞台の真ん中に戻り手を差し出す。
女2、重ねる。そして、3人目の場所を空ける。
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女3
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え? あ……
女3、おずおずと立ち上がり、手を重ねる。
手が触れる。二人がはっとすると同時に、音楽が止まる。
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女1
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……揃ったね。
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女2
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うん
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女1
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いくぞーーーーー!!!!!! ●●18歳!!!!
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女2
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▲▲16歳!!!!
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女3
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ね、それもうやめよ?
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2人
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■■……永遠の17歳!!!
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女3
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ぎゃーーーーやめてー!!!!
女3はしゃがみこむ
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2人
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コンセプトは「わかりやすいアイドル」!!!
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女2
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アイドル界のトップを目指して!
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2人
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トリプルアクセル、行くぞー、おー!!
女1と女2は、意気込みが顔に現れている。へたりこんだままの女3。
プロが駆け込んでくる。
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プロ
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大変だあーーーー!!!!
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女2
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次はなんですか!
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プロ
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か、甲冑が届いた……20台も!!!
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3人
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えええええ!!!
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女1
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甲冑は、20領(りょう)と数えてください!
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女3
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つっこむとこ、そこ!?
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女2
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そういえば、ありったけくれって言ってたような……。
マネージャーと学生が駆け込んでくる
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2人
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どえらい大変だーーーー!!!!!
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学生
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たまごかけごはんセットが、100人前届いてます!
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マネ
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ついでに、燻製キットが10セット届いてる!
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3人
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えええええ!!!
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マネ
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プロデューサーさん……どうするんですか、この請求書(3枚の紙)
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プロ
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なあ、お前ら……
少し、気まずい間。
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プロ
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やっぱり路線変更しない?
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3人
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しません!
元気のいい音楽がかかって、幕。
※このお芝居をとおして、女3のセリフに反応しないルールを徹底してください