〇人物(登場順)
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晴人
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緑川晴人。中学生2年生。母(みのり)を1年前に亡くしている。
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みのり
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緑川みのり。晴人の母。1年前に交通事故で亡くなっている。
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死者
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お盆に死後の世界から現世に戻るため、役所に手続きをしにきた死者。
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職員
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死後の世界の役所の職員。
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先生
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晴人のクラスの先生。
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美咲
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山口美咲。中学生2年生。晴人のクラスに転校してくる。
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生徒1
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生徒2
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生徒3
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生徒4
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生徒5
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※舞台上にさらに生徒役が出ていても良い。
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〇場面
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季節は春から夏。日本。場所は、死後の世界と、現世の中学校。
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〇シーン1(晴人とみのり)
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軽快な音楽が流れ、幕があがる。
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舞台上には、出演者が散らばっている。この時点で、教室の机と椅子は設置されている。
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舞台中央の晴人に明かり。
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晴人
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僕は、緑川晴人。なぜか、昔からいろんなニックネームで呼ばれる。
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生徒1
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みどりん、おはよー
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晴人
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おはよう!
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生徒2
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みどりちゃん、絶好調~?
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晴人
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うん、絶好調!
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生徒3
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はるくん、今日授業終わったら遊びにいこうぜ~
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晴人
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いいよ~、Switch持ってきてよ!
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生徒4
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どりはる、消しゴム忘れちゃった~!
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晴人
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ふたつあるから、使ってよ!
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生徒5
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おーい、どりはるんりんくる~
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晴人
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それもはや面影ないよね?
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生徒5
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あるよ、み「どり」かわ「はる」と。ほら。
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生徒5が、明かりに入ってきて、ゆっくりテヘペロする
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晴人
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(生徒5にあわせて)テーヘーペーロ、じゃないよ、もう。でも、一番無理があるのは、お母さんの呼び方だ。それは、
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舞台上手、みのりに明かり。晴人の明かりは、そのまま。
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みのり
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(自信をもって堂々と)ひょん太郎。
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間。
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晴人
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「晴人」の面影がゼロだよ?
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みのり
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面影あるよ! はると、はるちゃん、はるひょん、ひょん、ひょん太郎。ほら!
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晴人
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ないよ! 人類は、太古の昔は魚だったとかそういう話じゃないんだよ?
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みのり
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かわいいと思うんだけどなあ、「ひょん太郎」
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晴人
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って、お母さんはずっと言ってた。……明るくて、優しくて、ちょっと雑で、おっちょこちょいなお母さん。
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みのり
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ちょっと! ひょん太郎!
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晴人
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そんなお母さんは、去年の夏、交通事故で父さんと僕を残して、亡くなった。
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みのりの明かり、消える。晴人は、ゆっくりとうずくまる。
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晴人
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それ以来、僕は、心の底から笑うことができない。
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生徒1
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みどりん、おはよー
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生徒2
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みどりちゃん、元気?
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生徒3
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はるくん、今日授業終わったら遊びにいこうぜ~
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生徒4
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どりはる、元気出せって!
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生徒5
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おーい、どりはるんりんくるー。
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晴人
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……もう一度、もう一度だけ、ひょん太郎って呼んでよ、お母さん。
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ざわざわとした音(電話の音など事務所であることが分かる音が入っているとよい)。
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みのりは上手に退場。(他の役者は舞台上に職員として残る)
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〇シーン2(1月頃、死後の世界)
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舞台の真ん中あたりにやや広めの明かり。職員と死者が座っている。
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以下の会話の中で、事務所の音、ゆっくりとストップ。
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職員
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はーい、じゃあ、次のお盆も、先祖の霊として、現世にお帰りをご希望ですね。
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死者
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はい。1年楽しみにしてました。
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職員
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では、この書類を「お盆の帰省」と書かれた窓口に提出してください。くれぐれも間違いのないようにお願いします。
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死者
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はい、気を付けます。ありがとうございました。
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チャイムの音(昼休憩の合図である)。
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死者は書類を持って下手に退場する。
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職員も、昼休憩にしようと上手に退場しかけるが、みのりが上手から駆け込んでくる。
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みのり
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まって、まって、まって! すみません! 現世の人に乗り移りたいんですけど、手続きはここで大丈夫ですか?
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職員
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はい、大丈夫ですよ。書類、書いてきました?
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みのり
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あ、はい、よろしくお願いします。(職員に、書類を渡す)
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職員
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(書類を見て)生前のお名前は、緑川みのり……あ、名前の記入箇所違いますね。
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みのり
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あ、ほんとだ。すみません、私ったらおっちょこちょいで。直しますね。(ペンで書いて)ああ⁉ 紙が破けた⁉
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職員
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ああ、もう。
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みのり
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あはは、私ったらちょっと雑で……。
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職員
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大丈夫です。直しておきます。
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(書類を見て)乗り移りの理由は、息子の晴人くんを笑えるようにしたい。
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みのり
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はい! あの、私は、乗り移り、できるんでしょうか。
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職員
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それは、このあと神様っぽい人との面談で決まります。
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みのり
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神様っぽい人?
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職員
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昨今、全員が全員、神様がいると信じているわけではないので、そういう人に配慮して、「っぽい人」をつけてます
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みのり
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「っぽい人」って……、そんなこと言ったら失礼なのでは?
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職員
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大丈夫大丈夫。別にそんなことでいちいち怒ったりしませんから。
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職員は、スマホを取り出して
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職員
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あ、すみません、神様っぽい人につないでもらえます? あ、お疲れ様です。絶好調っすか、よかったすね。聞いてませんけど。あの、面談お願いできます? ええ、面談。乗り移りの。ええ? お昼ごはん? そんなの後でお願いします。どうせ食べなくても死なないんだから。もっと人に優しくしろ? あははは、人じゃないじゃないですか。面白いこと言っちゃって。
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みのり
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やっぱ人じゃないじゃん!
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職員
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はい、じゃあ、よろしくお願いしまっす。え? 先にちょっと電話させろ?
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職員、スマホをみのりに渡しながら
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職員
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まあ、一応、失礼のないようにお願いします。
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みのり
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はい。(スマホを操作して)あ、電話きっちゃった!
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職員は、スマホをしまいながら
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職員
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まあ、面談はオーケーだったんで、大丈夫でしょ。
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みのり
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あの、もし乗り移りが実現するとしたら、いつ頃になります?
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職員
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手続きに二ヶ月ほどかかるので、三月十四日から七月十三日になると思います。
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みのり
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わかりました。七月十三日までですね。
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職員
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面談の前に、注意点をご説明しますね。
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職員は、紙をみのりに渡して、
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職員
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乗り移りですが、現世の人に分からないようにしてください。知られてしまったら、その時点で「乗り移りは終了」で、死後の世界に「強制送還」です。また、関わった人は、「記憶を消去」します。大切なんで、復唱してもらえますか?
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みのり
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ええと、バレたら、乗り移りは終了で、強制的に死後の世界に戻されちゃう
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職員
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あと、関わった人の記憶も消去します。これも重要なんで忘れないでください。
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みのり
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記憶も消去……厳しいんですね。
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職員
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人間は、この手の事例はすぐに小説とかマンガにしちゃうから。
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みのり
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私、ちょっとおっちょこちょいなところがあるので、バレないようにしないと。
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職員
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ちょっと?
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みのり
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はい、ちょっと。
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職員
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多様性は大切にしないとですね。
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みのり
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ん? なんか釈然としないな?
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職員
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では、こちらの申請書を、(舞台下手側を指さして)あちらの「乗り移りはこちら」という窓口に出してください。
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みのり
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はい。
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職員
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くれぐれも提出先を間違えないでくださいね。この前、「生まれ変わり・転生」の窓口に出しちゃって、戻ってこれなくなっちゃった霊の方がいたので。
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みのり
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わかりました。
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職員
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乗り移りが実現したら、ぜひ現世を楽しんでくださいね。
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みのり
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はい! おいしいもの食べて、キンプリの新曲のCDを買います!
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職員
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キンプリ?
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みのり
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King & Prince、私好きなんです。
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職員
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いい年して?
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みのり
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いえ、好きに年は関係ありませんから!
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職員
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そうですね。他、ご不明な点はあります?
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みのりは、少し迷ってから、
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みのり
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あの……、晴人を笑えるようにしたいっていう理由で乗り移りをするのは、変でしょうか? やっぱり、子離れ、しなきゃだめなんでしょうか。
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職員
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いろんな子がいて、いろんな親がいて、いろんな家族があります。緑川さんの理由は、とても素敵なものだと思いますよ。面談、がんばってくださいね。
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みのり
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ありがとうございました!
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みのりは、書類をもち、礼をしてから、上手に退出。
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〇シーン3(四月五日午前、教室)
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チャイムの音の中、舞台全体に地明かりに切り替わる。
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先生が上手から入ってくる。以降、教室の出入り口は上手。
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先生
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はーい、みなさーん、おはよーございまーす。
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生徒1
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きりーつ、れー。
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一同
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おはよーございまーす。
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先生
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はい、今日から2年生ですね。また1年間よろしくお願いします。
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生徒
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(はーい)
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先生
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ええ、本日から、転校生がきます。山口さん、入ってください。
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美咲
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はい、失礼します。
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美咲は入ってきてからクラスを見渡し、晴人を見ると
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美咲
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あーーーーーー!!!!!!!
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先生
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ええ?
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美咲
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ひょん太郎!!!
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晴人
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(椅子から、ガタガタっと転げ落ちる)
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生徒は、晴人に注目。美咲は、しまったという顔。
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生徒2
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みどりちゃん大丈夫?
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晴人
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……お母さん?
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生徒たちは、「お母さん?」などと疑問を口に出す
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美咲
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んー? なんのことかなあ?
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晴人
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え? あ、ええと、すみません、間違えました。
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生徒3
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お母さんと転校生間違えるとか、小学生かよー。
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生徒
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(笑)
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先生
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あー、静かに。はい、じゃあ、山口さん、一言お願いします。
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美咲
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はい! 新潟県から引っ越してきました、「緑川みのり」です!
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晴人
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(椅子から、ガタガタっと転げ落ちる)
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生徒は、晴人に注目。
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生徒4
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はるたろりん、どうしたの? 今日何か変だよ。
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晴人
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いや、ええと、うん、大丈夫。
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先生
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ええと、山口さん、緑川って……?
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美咲
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え? あ、ええと……、新潟に「緑川」というおいしい日本酒がありまして
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先生
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日本酒?
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美咲
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ええ。私はけっこう好きです。
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先生
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お酒飲んでるの?
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美咲
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はい! あ、じゃなくて、私の父が、毎晩寝言で「うまいぞー」って。
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先生
|
うん、山口さんの自己紹介をお願い
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美咲
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ですよね! はい!
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美咲、背筋を伸ばして
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美咲
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新潟出身なのに「山口に美しく咲く」で、山・口・美・咲です! パソコンとスマホで一発変換できるので、日々両親に感謝しています! 好きなアーティストはキンプリで、CDは全部、発売初日に買ってます! 家族構成は、父と母と私とかわいい弟です! よろしくお願いします!
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先生
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はーい、ちょっと変わった山口さんですが、みんなよろしくね。
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美咲
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ひどい!
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生徒
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よろしくお願いしまーす。
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美咲
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ええと私の席は……、(晴人の隣を指さして)あ、あの席が空いている! (移動しながら)あの席ですよね⁉
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先生
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まだ何も言ってないけど、あの席でいいですよ。
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美咲
|
はい! わかりました!
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みのりは、空いている席に移動して、
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美咲
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よろしくね! 緑川くん!(手を差し出し、握手しようとする)
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晴人
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……僕、山口さんにまだ名前言ってないんだけど
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美咲
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おおっとう!?
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晴人
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ええと……名簿を、もう見たのかな?
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美咲
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そそそ、そうだよ! 緑川くんったら、さすがだね?
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チャイムの音。
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先生
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じゃあ、一時間目は理科です。移動開始してー。
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生徒
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(はーい、等)
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生徒5
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理科室、案内するよ?
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美咲
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うん! ありがとう!
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生徒1
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美咲ちゃんは、みどりちゃんと知り合いなの?
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美咲
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え、いやいや、全く初めての、全っ力の初対面!
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生徒2
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全力の初対面ってどういうこと?
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先生と生徒は出ていく。晴人に明かり。
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晴人
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緑川晴人を、「ひょん太郎」と呼ぶ人は、世界に1人しかいない……。
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生徒3
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どりはるんりんくるー、理科室いくよ~
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晴人
|
あ、うん……ところで、それ、無理あるよね?
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|
学校、あるいは、放課後にまつわる元気な音楽が流れる。
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〇シーン4(四月五日午後、教室)
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音楽がかかっている中、生徒たちがガヤガヤと教室に戻ってくる。
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先生が入ってきて、音楽が止まる。
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|
先生
|
はい、帰りの会をはじめます。山口さん困ったことはなかった?
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生徒5
|
あった! 山口さん、筆記用具何も持ってなかった!
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美咲
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いやー、普段使わないじゃない。
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生徒4
|
使わないないわけないでしょ。前の学校でどうしてたの?
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美咲
|
ん? あ、そうか。
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生徒3
|
そうかって。
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晴人
|
(つぶやく)筆記用具を持ち歩く習慣がない……
|
先生
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はいはい静かに。まあ、筆記用具は持ってきてほしいですが、「みんなちがって、みんないい」ということで。
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生徒
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(はーい)
|
美咲
|
んー? なんか釈然としないな?
|
先生
|
はい、今日は、連絡事項が二つあります。一点目、七月に進路希望調査をします。行きたい高校や将来どんな仕事をやってみたいか書く欄があるので、1学期を通じてよく考えてください。
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生徒
|
(やや、後ろ向きなトーンで)はーい
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先生
|
で、二点目です。ええと、今年の文化祭ですが……。
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生徒2
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どうせやらないんですよねー?
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生徒1
|
またコロナでしょ。
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|
少し間。
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|
先生
|
やります!
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生徒
|
おおおおーーーー
|
先生
|
文化祭は、七月十四日の金曜日です。
|
美咲
|
うぇ!? 七月十四日?
|
先生
|
ん? 山口さん何かある?
|
美咲
|
えーと、文化祭、その前の週になったりしないですかね?
|
先生
|
いや、ならないけど……何かあるの?
|
美咲
|
ええと……七月十四日はキンプリの新曲のCDの発売日だから休まないと……
|
先生
|
次の日に買ってください。
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美咲
|
CD売り切れてますって!
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生徒3
|
スマホできけるじゃーん。
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美咲
|
ふっふーん、キンプリはCD販売オンリーなの! これ常識だから!
|
先生
|
では、予約注文しておいてください
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美咲
|
しまった! その手があった!
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晴人
|
(つぶやく)お母さんは、キンプリが大好きだった……。
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先生
|
文化祭のメインはクラス発表です。文化祭実行委員、やりたい人ー?
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生徒、沈黙。
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|
|
先生
|
しーんって、おーい! さっきめちゃくちゃ喜んでなかった?
|
生徒4
|
いやー、とは言っても
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生徒5
|
文化祭実行委員は……なあ。塾とか勉強とか……あるし。
|
生徒1
|
だよねえ。進路とか……。
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|
若干気まずい間
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美咲
|
はい! 私やります!
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生徒は、美咲に注目
|
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美咲
|
はっ、気まずすぎて、思わず手を上げてしまった!
|
先生
|
山口さんは、転校したばかりで慣れてないから、大変じゃない?
|
美咲
|
いや、でも、みんな勉強とか進路とかもあるだろうし。
|
先生
|
それは山口さんも同じでしょ!
|
美咲
|
あっ、そういえば!
|
先生
|
山口さんじゃ分からないことも多いだろうから、もう一人いないかな?
|
美咲
|
あの、緑川くん、一緒にやらない?
|
晴人
|
え? 僕?
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生徒2
|
山口さんは、みどりんのお母さんだからね~
|
美咲
|
だだだだ断じてそのような関係ではありません!
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生徒1
|
知ってるってー!
|
先生
|
緑川くん、やってくれる?
|
美咲
|
ね、やろ?
|
晴人
|
(つぶやく)ここでやることにすれば、何か分かるかもしれない
|
美咲
|
ん?
|
晴人
|
はい、僕でよければ、やります。
|
生徒
|
(よろしく~!)
|
先生
|
はい、では解散~。
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先生は出ていく。スピード感のある明るい音楽が流れる。
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〇シーン5(四月~五月、文化祭の準備)
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|
音楽が、タイミングの良いところで、スパッと止まる。
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美咲
|
はい、四月二十六日、水曜日のクラス会です。今日は、文化祭のクラス発表で何をやりたいか、アイデア出しをします。はい、何かアイデアある人―?
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生徒3
|
んー……、ない!
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生徒2
|
ない!
|
生徒1
|
ない!
|
生徒4
|
ない!
|
美咲
|
はい、それでは、オチどうぞ。
|
生徒5
|
んー……、ない!
|
美咲
|
ないのかー……なんかあるでしょ?
|
生徒4
|
でもさー、文化祭の他にも考えなきゃいけないことがいっぱいあるんだよ
|
美咲
|
たとえば何?
|
生徒2
|
んー進路とか?
|
生徒3
|
そうそう、進路希望調査。
|
生徒1
|
はー、暗い気持ちになる。
|
美咲
|
まー、そうか、そうだよねえ。中学生だもんねえ
|
生徒5
|
山口さんもね!
|
|
|
先生が入ってくる。
|
|
|
先生
|
みんな進んでる~?
|
美咲
|
あ、先生、みんな進路に悩んでます。
|
先生
|
えー、まず文化祭のこと真面目に考えたら分かるかもよ。
|
美咲
|
で・す・よ・ね! 緑川くん、何かアイデアない?
|
晴人
|
え? ああ、僕も……ない、かな……ごめん。
|
美咲
|
先生、連休中に考えることにしましょうか?
|
先生
|
ん? ああ、いいんじゃない? 進路も考えておいてね~
|
生徒1
|
ねーねーおかーさーん。
|
美咲
|
ん、なに?
|
生徒2
|
やっぱお母さんじゃん!
|
美咲
|
しまった!
|
生徒3
|
このままじゃ、連休明けも同じになっちゃう気がするんだよね
|
生徒4
|
それな。
|
生徒5
|
でも、全然わかんないよ、文化祭も、進路も
|
美咲
|
何だっていいよ。自分がされたらやだと思うことはやっちゃいけないだけで。
|
生徒2
|
なにそれ、てきとー!
|
美咲
|
てきとーじゃないよ! 長年生きて、たどり着いた答えだよ!
|
生徒3
|
長年って何年?
|
美咲
|
よんじゅう……
|
生徒4
|
よんじゅう⁉
|
美咲
|
じゅ、十四年だよ?
|
生徒5
|
ふつーじゃん!
|
晴人
|
これ、もう絶対そうだよね……
|
美咲
|
ん? 緑川くんなんかある?
|
晴人
|
あ、いや、なんでもない
|
美咲
|
でもまあ、自分が好きなことやればいいよ。文化祭も、進路も。
|
生徒1
|
それが難しいんだよねー。
|
生徒2
|
自分が好きなものなんて、わかんないよ……。
|
美咲
|
私は、キンプリが好きだよ?
|
生徒1
|
それは知ってるよ!
|
美咲
|
しかしながら、これから何をやればいいのかは全くわからない!
|
生徒3
|
ねえ美咲ちゃん、なんでそんな自信まんまんなの。
|
美咲
|
ふっふっふ、なぜなら、私はまだ中、学、生だから!
|
生徒4
|
ふう……文化祭のこと考えるか。
|
生徒5
|
そうだね……。
|
美咲
|
ねえ、なんでみんないきなり真面目になるの……?
|
生徒1
|
じゃあ、みんなで連休中に考えようか。
|
美咲
|
緑川くんはどう思う?
|
晴人
|
あ、うん、連休中に考えてもらうのがいいんじゃないかな……
|
|
|
スピード感のある明るい音楽が流れる。タイミングの良いところで止まる。
|
|
|
美咲
|
はい、五月十日のクラス会です。今日は決めるよ!
|
生徒1
|
わかった、決めるぞー、気合だ……。
|
美咲
|
うおー、いきなり気が抜ける……。
|
生徒2
|
連休に考えてみたけど結局何やったらいいのか分かんないよ。
|
生徒3
|
そうそう、私達、文化祭なんてやったことないし。
|
美咲
|
え? みんな文化祭やったことないの?
|
生徒4
|
ないよー、コロナだったから。美咲ちゃんの前の学校もでしょ?
|
美咲
|
え? ああ、そう? だったよ、もちろん?
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生徒5
|
なんでそこに自信ないの。
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生徒1
|
美咲ちゃんだから……
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生徒
|
(あー)
|
美咲
|
ねえ、なんでみんな納得してるの……? 私、どう思われてるの?
|
晴人
|
あ、あの! 先生
|
先生
|
ん、なに?
|
晴人
|
あの、コロナ前の文化祭は何やってたんですか?
|
先生
|
ステージ上でできることだったら、なんでもありだったよ。合唱、合奏、演劇、コント、漫才、大道芸、歌舞伎、狂言、英語スピーチ、ディベート、ダンス。
|
|
|
生徒たちは、しばし考えて、
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生徒1
|
ガチでダンスやりたい!
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生徒2
|
漫才やりたい!
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生徒3
|
歌いたい!
|
生徒4
|
英語スピーチに憧れる!
|
生徒5
|
歌舞伎やりたい!
|
|
|
(ここで何を主張し、クラスで何をやるかは、自由に変えてよい)
|
|
|
美咲
|
ひらめいたーーー!!!
|
|
|
生徒たち、注目
|
|
|
美咲
|
全部やろう。
|
生徒
|
えーーー!!!
|
美咲
|
漫才みたいな歌みたいな英語スピーチみたいな歌舞伎みたいなガチのダンス
|
生徒
|
えーーー!!!
|
美咲
|
絶対いいものになる。見たことないけど
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生徒1
|
見たことないんじゃん!
|
美咲
|
(ゆっくりテヘペロ)
|
生徒2
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(美咲にあわせて)テ、ヘ、ペ、ロ、じゃないよ~
|
生徒3
|
ダンスの中に、いろんな要素を入れてみようっていうこと?
|
美咲
|
わくわくしない?
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生徒2
|
する、かも
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生徒4
|
できる、のか?
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美咲
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うーん、たぶん大丈夫だと思うんだよねー
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生徒5
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根拠は?
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美咲
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ないけど
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生徒5
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でました根拠レス
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生徒1
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まあ、いいんじゃない、面白そうだし
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生徒2
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やってみよう、か……?
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美咲
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緑川くん、ありがと。おかげで流れが変わったよ。
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晴人
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え、僕は何も。
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美咲
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いいのいいの、緑川くんのおかげ。ですよね、先生?
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先生
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うん、きっかけは、緑川さんの発言だね
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美咲
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ということで、ここからの企画リーダーは、緑川くんに任せます!
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晴人
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えーーーーー!!!!!
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スピード感のある明るい音楽が流れる。
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舞台センター前に、二人くらい入れる広さの明かり。
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以下のシーンは、音楽が流れている間にスピード感をもって演じられる。
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シーンが進んでいる間、他の役者たちは、机と椅子を舞台の外に運ぶ。
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生徒1
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(晴人にかけよって)ねえねえ、みどりん、ダンスの振り付けの相談いい?
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晴人
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ダンスが得意じゃない人もいるから、なるべく簡単に!
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生徒1
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うん、ありがと!(走って退場)
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生徒2
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(入れ違いに晴人にかけよって)みどりちゃん、漫才の台本読んでくれた?
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晴人
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うん、いいと思う。発表時間がすごく短いから、もう少し短くしてほしい。
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生徒2
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サンキュー! じゃあ、直してまた相談するね!(走って退場)
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生徒3
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(入れ違いに晴人にかけよって)はるりん、合唱パートが全然思いつかない!
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晴人
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みんなで、普通に本気で歌えばいいよ!
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生徒3
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よし、それだけでかっこいいな!(走って退場)
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生徒4
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(入れ違いに晴人にかけよって)おーい、どりはるー! 英語スピーチの原稿これでいい?
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晴人
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ごめん! 英語苦手! 先生に見てもらって!
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生徒4
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分かった!(走って退場)
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生徒5 (入れ違いに晴人にかけよって)はあはあ、どりはるんりんくるー!
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晴人
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あきらめないね⁉
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生徒5
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歌舞伎の動きなんて全くわからん!
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晴人
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とりあえず、Youtube見て、真似しよう!
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生徒5
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おー! そうする!
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このときまでに、机といすを舞台の外に運んでおく。
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音楽の音量があがり、晴人と美咲を残して、役者は退場。
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〇シーン6(六月中旬、教室)
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音楽が止まる。舞台には、晴人と美咲の二人
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晴人
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だいたいやることは決まってきたから、あとは練習あるのみだね。
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美咲
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文化祭まで、あと一か月か。
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晴人
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……あのさ、ずっと聞きたかったことがあるんだけど、いい?
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美咲
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うん? 何?
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晴人
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……山口さんは、僕のお母さん? ……な気がするんだけど。
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美咲
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……ふへ?
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晴人
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転校初日に緑川みのりって言ってたよね。あれ、僕のお母さんの名前なんだ
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美咲
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へ、へー、そうだったんだあ……
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晴人
|
あと、筆記用具まるごと忘れてたよね?
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美咲
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まあ、そういうこともあるよね
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晴人
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学校に筆記用具を持ってこない中学生はいないよね。大人ならともかく
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美咲
|
へー、こ、ここにいたんだけどね
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晴人
|
あと、ひょん太郎。
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美咲
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……誰、それ。
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晴人
|
山口さんは、お母さん、だよね?
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|
沈黙。
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美咲
|
(誰にも聞こえないような声で)ごめんね、ひょん太郎
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晴人
|
え?
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美咲
|
……あの、あなたは、誰ですか?
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晴人
|
え?
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美咲
|
ええと、ここは、どこですか?
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晴人
|
〇〇市立〇〇中学校、だよ?
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美咲
|
ええと……なんで私がここにいるのか、分からない
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晴人
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えっ、どうしたの?
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美咲
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私、どうしちゃったんだろう……
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間。
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晴人
|
あの、変なことを聞くようだけど、筆記用具は持ち歩く?
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美咲
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え、当たり前でしょ?
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晴人
|
キンプリのCD買ったことある?
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美咲
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そもそも、CDを買ったことがない
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晴人
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自分の名前をパソコンで変換すると、どういう気持ちになる?
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美咲
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考えたこともないけど……なんでそんなこと聞くの?
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晴人
|
……ありがとう。よくわかったよ。君は、山口美咲さんだ
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晴人は、うつむいている。
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美咲
|
ごめんね。
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晴人
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なんで謝るの?
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美咲
|
緑川君が泣いてるから……
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晴人
|
そう……ありがと。
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|
晴人にやや狭い明かり。
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|
晴人
|
それから僕は、四月五日から今日までのことを、全部話した。話していく中でわかったことがある。山口美咲は、山口美咲だ。僕のお母さんでは、ない。その後の二週間、僕たちは、文化祭の準備を、全力で進めた。
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|
音楽がかかり、暗転。
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〇シーン7(六月三十日、教室)
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暗転中
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生徒たち
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もう無理だよ!!
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明転して、
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生徒1
|
漫才みたいな歌みたいな英語スピーチみたいな歌舞伎みたいなガチのダンスなんて、意味わからなすぎだよ!
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生徒2
|
どうしよー、あと二週間しかないんだよ? 絶対間に合わないよ
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生徒3
|
……ねえ、これ、やめない?
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生徒4
|
もっと簡単なものとかに変えようよ。
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生徒5
|
だいたい、山口さんが、あんなめちゃくちゃアイデア出すから……
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美咲
|
え?
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生徒1
|
え、じゃないよ。「ひらめいたーーーーー!!!」って。
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美咲
|
あ、ええと、そう、だったかも……。
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生徒3
|
忘れちゃったの?
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生徒2
|
なんか、最近美咲ちゃん、変じゃない?
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晴人
|
あ、ええと、ほ、ほら! でも、いまは僕が企画リーダーだから!
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生徒5
|
じゃあ、はるとろりんはどうしたらいいと思う?
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晴人
|
とろりん? ええと、もっと簡単なものって、具体的には何かある?
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|
生徒たち、顔を見合わせて
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生徒3
|
ない!
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生徒2
|
ない!
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生徒1
|
ない!
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生徒4
|
ない!
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晴人
|
はい、(生徒1に)それでは、オチどうぞ。
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生徒5
|
んー……、ない!
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晴人
|
(ちょっと笑って)ないの?
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美咲
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ふふふ
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晴人
|
ええと、山口さんは、どうするのがいいと思う?
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美咲
|
最後は、リーダーのどりるんに決めてほしいけど。
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晴人
|
どりるん?
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美咲
|
みんないろんな呼び方して楽しそうだなって。
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生徒5
|
「ひょん太郎」が一番変だったけどね。
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美咲
|
え? ひょん太郎? ……ええと、客観的に見て、いくら何でもそれは変すぎじゃない?
|
生徒3
|
いや、あんただよ。
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晴人、
|
ああ、ほら! うん、話がそれちゃったけど、山口さんは、どうするのがいいと思う?
|
美咲
|
私の意見は……、絶対面白いと思う。
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晴人
|
うん、ありがとう。じゃあ、僕の意見を言っていいかな。
|
晴人
|
僕は、一番最初にみんなでわくわくした気持ちを大切にしたい。
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生徒3
|
そりゃ、それができれば、いいけどさ。
|
晴人
|
できないかな。
|
生徒2
|
ちょっと不安。間に合う?
|
生徒4
|
あと、意味わからんって言われないかな?
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晴人
|
間に合うし、言われないよ。
|
生徒1
|
なんで?
|
晴人
|
うーん、たぶん大丈夫だと思うんだよねー。
|
生徒5
|
根拠は?
|
美咲
|
ないけど
|
生徒5
|
でました根拠レス
|
生徒2
|
はるりん、なんか山口さんに似てきたなー。
|
晴人
|
え?
|
生徒3
|
付き合ってるんじゃないの~?
|
美咲
|
え、あ、あの、ええと、ええ?
|
生徒3
|
あれ、意外な反応……
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生徒1
|
美咲さん、最近なんか、ちょっと変……?
|
晴人
|
だだだだ断じてそのような関係ではありません!
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生徒4
|
別にはるるんが美咲ちゃんのマネしなくていいって。
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|
|
生徒、笑い
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|
晴人
|
ふー……
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生徒4
|
ねえ、もう一度練習しない?
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生徒1
|
みどりんの根拠レスな自信を信じるか。
|
生徒5
|
うん、本番までにできるだけ練習して、できたところで発表しちゃおうよ。
|
生徒3
|
ま、それでいいか。
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生徒2
|
うん、じゃあ、体育館いこー
|
|
|
みんな出ていく。晴人は残る。
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|
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〇シーン8(七月十四日・文化祭当日、本番前の控室)
|
|
|
舞台中央、やや狭めの明かりに切り替わる。がやがやした音。
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|
放送
|
それでは、三年一組は発表の準備に入ってください
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|
美咲が走って入ってくる
|
|
|
美咲
|
本番前にごめん、晴人くん、ちょっといい?
|
晴人
|
どうしたの?
|
|
|
美咲、手紙を取り出して
|
|
|
美咲
|
今朝、弟が私に渡してきたの。
|
晴人
|
「ひょん太郎へ」、これって……
|
美咲
|
本番の日に渡すように言われてたんだって。その前は、絶対に渡しちゃダメって。
|
|
|
美咲は、晴人に手紙をわたす。がやがやした音、止まる。
|
|
|
晴人
|
(美咲に)ごめん、一緒に読んでもらっていい?
|
美咲
|
いいの?
|
晴人
|
うん、そのほうがいい気がする
|
美咲
|
じゃあ……「ひょん太郎へ」
|
|
|
みのりが上手から登場。みのりに明かり。
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|
|
二人
|
この手紙は、五月十日、クラスの発表が決まった日に書いています。この手紙を読んでいる頃、私は美咲ちゃんの心から消えているはずです。
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|
|
音楽がかかる。
|
晴人と美咲のあたりのみ、明かり。(以降の手紙は、みのり役がよむ)
|
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手紙
|
1年前の交通事故のあと、私は、元気になれないひょん太郎のことが心配でした。だから、思い切って、神様っぽい人に現世の人に乗り移りたいと申請しました。
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晴人
|
神様っぽい人……?
|
手紙
|
面談では、こう言われました。「うん? まあ、いいんじゃね?」
|
晴人
|
そんな感じなの⁉
|
|
|
手紙
|
私が美咲ちゃんに乗り移ったのが、三月十四日。乗り移り終わるのは、七月十三日。文化祭は、七月十四日。あー、一緒に出たかったな~
|
晴人
|
七月十四日はキンプリの新曲の発売日だから文化祭に出れない……
|
|
|
手紙
|
私は、七月十三日までの期間満了でしたか? それとも、強制送還でしたか?
|
晴人
|
強制送還?
|
手紙
|
ホントはさー、乗り移りってばれちゃ、ダメなんだよね。ばれちゃったら、強制送還なんだって。お母さん、けっこううまく隠してたつもりなんだけど。
|
晴人
|
うそでしょ⁉
|
美咲
|
ばれちゃダメって……この手紙はいいの?
|
手紙
|
大丈夫、大丈夫。たぶん、神様っぽい人は手紙程度じゃ怒らないから。
|
美咲
|
そういうものなの……?
|
手紙
|
私の望むことは、あまり多くありません。ひょん太郎が元気になること。友達や、好きになった人といっぱい笑いながら、長生きしてください。
|
|
|
音楽、止まる。
|
|
|
晴人
|
好きになった人?
|
手紙
|
晴人ってばそろそろ美咲ちゃんのこと、好きになっちゃってる気がするんだよなー。
|
美咲
|
えっ。
|
晴人
|
ちょっと、お母さん!
|
美咲
|
ええと……
|
晴人
|
(うつむいて)何も気にしないで読んで……
|
|
|
手紙
|
お母さん、嬉しいような複雑なような微妙な気持ちだわー。
|
晴人
|
お母さん、デリカシー……。
|
|
|
手紙
|
追伸。美咲ちゃんは、実は、そろそろひょん太郎のことが……
|
美咲
|
わあーーーー!!! お母さん! デリカシー!
|
晴人
|
なに? どうしたの?
|
美咲
|
ん? ななななな、なんでもないよ。
|
|
|
舞台全体に地明かり。
|
生徒たちが、ざわざわしながら、入ってくる。
|
|
|
生徒3
|
美咲ちゃん、はるりん! もうすぐ本番だよー
|
生徒4
|
もう、準備バッチリだよ!
|
生徒5
|
ねえ、あれやろうよ。みんなで、オーってやつ
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生徒1
|
じゃあ、山口さん、どりはる、おねがい
|
晴人
|
え? 僕たち?
|
生徒2
|
そりゃ、二人がやるんでしょー
|
美咲
|
わかったよー、じゃあ、輪になって。
|
|
|
みんなで輪になり、
|
|
|
美咲
|
(大きく息をすって)三年一組ーーーーーーー!!!!
|
晴人
|
……
|
美咲
|
(ささやくように)ちょっと、緑川くんだよ。
|
晴人
|
あ、ああ、よし、いくぞーーーーーーー!!!!
|
生徒
|
おーーーーーー!!!!
|
|
|
暗転。暗転中にダンス曲が流れる。
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〇シーン9(七月十四日・文化祭当日、クラス発表)
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ダンス曲のタイミングの良いところで、明転。色とりどりの明かり。
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生徒たちはみんな、全力で、笑顔で、やりきって踊りきる。
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音楽がとまり、同時に暗転。暗転中に、司会のセリフ(効果音)
|
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司会
|
文化祭のクラス発表の優勝は、「漫才みたいな歌みたいな英語スピーチみたいな歌舞伎みたいなガチのダンス」を発表した3年1組です!
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生徒
|
(喜びの声)
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|
暗転、舞台全体に地明かり。先生が、拍手しながら入ってくる。
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|
|
先生
|
みんなお疲れ様。よかったよ!
|
生徒5
|
楽しかった!
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生徒4
|
山口さん、どりはる、ありがとね!
|
生徒3
|
二人がいなかったら、ここまでできなかったよ!
|
先生
|
緑川くん、みんなに一言、いいかな?
|
晴人
|
ええと、みんな、ありがとう。うまくできなかったこともあったけど、みんながいてくれたからできました。ありがとうございました。
|
生徒2
|
どりーがいてくれたからだよ!
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晴人
|
そういってもらえると嬉しい!
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生徒1
|
私、ダンスとか、身体を使うことか、そういう勉強をしてみたくなった!
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生徒2
|
進路はまだ良くわからないけど、ちょっと、漫才とか続けてみようかな……
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生徒3
|
高校は軽音部に入って、歌いまくる!
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生徒4
|
英語を使う仕事をしてみたいな。
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生徒5
|
歌舞伎とかもけっこう面白いんだな。そういうことやってる高校探してみるよ。
|
生徒
|
ありがとう、どりりんりんくる!
|
晴人
|
また新しいのができたね⁉
|
先生
|
じゃあ、山口さん。
|
美咲
|
はい! 私も、すごく楽しかったです。みんなが一緒にがんばってくれたから、ここまでできました。ありがとうございました! 緑川くんも、ありがと。
|
|
|
美咲は、笑顔で、手をさしだす
|
|
|
晴人
|
こ、こちらこそ。(照れながら、手を握る)
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生徒1
|
今日キンプリ我慢したかいがあったじゃーん
|
美咲
|
我慢してないから! 今日、CDがうちに届いてるから!
|
先生
|
予約してたんですね。
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美咲
|
もちろんです!
|
先生
|
じゃあ、記念撮影するよー。はい、笑ってー
|
|
|
晴人は、自然に笑っている。美咲は、それを見て、嬉しそうにしている。
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|
|
先生
|
美咲さん、こっち向いて!
|
美咲
|
あ、すみません!
|
先生
|
(パシャ)さ、みんな片付けだよ~
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生徒
|
はーい
|
|
|
穏やかな音楽。生徒たちは、楽しそうに会話しながら、机をもとに戻し始める。
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ゆっくりと暗転。
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〇シーン9(七月二十日、教室)
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暗転中に机と椅子を速やかに配置し終えて、明転、舞台全体に地明かり。
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音楽がとまり、先生が入ってくる。
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|
|
先生
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はーい、みなさーん、おはよーございまーす。
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生徒2
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きりーつ、れー。
|
一同
|
おはよーございまーす。
|
先生
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はい、七月二十日の木曜日、明日から夏休みです。実は、とても急ですが、山口さんがお父さんの仕事の都合で、転校することになりました。
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晴人
|
山口さん?
|
|
|
ざわつく教室。寂しさが伝わっていく。
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|
|
先生
|
山口さん、さ、挨拶して
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美咲
|
とても短い間でしたが、ありがとうございました。みんなと踊ったダンスは、私の一生の思い出です。本当に、ありがとう、ございました。
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|
|
晴人に明かり。(他の生徒たちは、その場にいて良い)
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|
晴人
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明るくて、優しくて、ちょっと雑で、おっちょこちょいで、キンプリが大好きだったお母さん……。最後に少しだけ気を抜いたね。僕は、もう大丈夫だから。ありがと、お母さん。
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|
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みのりに明かり。(みのりは、晴人のセリフの裏で舞台に出てくる)
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|
みのり
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さよなら晴人。はると、はるちゃん、はるひょん、ひょん、ひょん太郎! いろんな子がいて、いろんな親がいて、いろんな家族がある。子離れって難しいなあ!
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みのりは、涙がこぼれないように上を向く。
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ダンスと同じ音楽がかかる。
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舞台がまばゆく明るくなって、出演者が礼をして、幕。
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|
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おわり
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