法廷


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[登場人物]
裁判官


夫側応援団
妻側応援団


明転すると、裁判官、夫、妻が座っている。
夫の後ろには、夫側応援団(以下、「夫側」)。妻の後ろには、妻側応援団(以下、「妻側」)。
 
裁判官 それでは、中野和哉さん、さきさんの離婚調停を始めます。
 
たいこの音、ドン、ドン、ドン
 
裁判官 和哉さん、さきさんに離婚を請求する理由を述べてください。
はい。
夫側 和哉さんの、健闘を祈って~! フレー、フレー、和哉! フレッ、フレッ、和哉! フレッ、フレッ、和哉!
さきとは、価値観がまったく合わないんです。
夫側 エル・クンバンチェローー!!! さんはい!
 
応援マーチ「エル・クンバンチェロ」がかかる。応援団が演舞する。
応援団の演舞の中、夫が淡々と離婚を請求する理由を述べるが、聞こえる必要はない。
 
例えば、カレーの辛さであるとか、電気はすぐ消すとか、使ったものは元にもどすだとか、服は脱いだらすぐに洗濯物かごに入れるとか、カレーの辛さであるとか、お弁当には漬物をいれるのかいれないのかとか、疲れて帰ってきた時には一杯ビールを飲もうとか、そういうことが全く理解してもらえないんです。僕はもう疲れてしまったんです・・・。
裁判官 (たいこ)静粛に。
 
裁判官のセリフとともに、応援団は直ちに演舞を止める。
裁判官のたいこは、マイムでもかまわない。
 
裁判官 さきさんは、離婚をするつもりはありますか?
いいえ。離婚をする気はありません。
裁判官 それはなぜですか?
(きっぱりと)価値観の違いは、離婚を請求する理由にはなりません!
妻側 狙い撃ちのテーマー!!!
 
応援マーチ「狙い撃ち」がかかる。応援団が演舞する。
先ほどと同様、応援団の演舞の中で妻が理由を語る。
 
だいたい、価値観というのは、あいまいすぎる言葉です。そんなもので離婚を請求されても、私は、何がいけなかったのか、さっぱりわかりません。何をしてほしいのか、どうしたらいいのかがわからない。一緒に暮らしていこう、お互い寄り添って生きていこうって言って結婚したのに、そんなあいまいな理由で終わらせることなんてできません。もっと話し合いをすることを望みます。
裁判官 (たいこ)静粛に。
 
演舞がとまる。
 
裁判官 裁判所としても、価値観の違いといったものはお互いの歩み寄りで克服すべきであり、離婚は認められないと考えますが、和哉さんはいかがですか?
妻側 いい流れだよ! ここ守っていこう!
本当は、こんなこと言いたくはなかったんですが・・・さきは、私の口座からお金を勝手に引き出していたんです!
(息を飲む)
 
「ファンファーレ」がかかる。応援団が演舞する。
 
どうも、お金が減っているなと思ったんです。おかしいなと思って、よくよくネットバンキングの履歴を見たら・・・私が会社にいる時間帯に、ATMから引き出しがあることがわかりました。もう信じられません。
裁判官 さきさん、そのような事実はあるのですか?
えっと・・・それは・・・ええと・・・(つまる)
夫側 バッターあせってる、はいはいはい!
裁判官 静粛に。あと、さきさんはバッターではありません。さきさん、お金を勝手に下ろしたというのは、事実ですか?
・・・はい。でも、そのお金は・・・娘の佳奈の・・・医療費です。
 
応援マーチ「紅」がかかる。踊り狂う妻側応援団。途中から、夫側も演舞に加わる。
妻は、激しく泣き崩れる。夫も泣いている。抱きしめ合って泣く二人。
だんだん暗転。
 
おわり。